Tuesday, October 13, 2009

スチュアート・カミンスキー 1934-2009

翻訳ミステリー大賞シンジケートにてスチュアート・カミンスキーが亡くなったことを知る

2005年3月に書いた書評を再録します。

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友達とつれしょんべんだ
ロビン・フッドに鉛の玉を BULLET FOR A STAR スチュアート・カミンスキー 和田誠訳

いやぁ、参りましたというしかないな。なにが、というと、まずその博識さ。ぼくは映画マニアじゃないけれど、ハンフリー・ボガードやジュディ・ガーランド の名前ぐらいは知っている。そんな人が思わずニヤニヤしてしまうことうけあいの、1940年のハリウッド、ワーナー・ブラザーズ撮影所を舞台にした探偵小 説。

依頼人に探偵が会いに行くと、向こうの窓からウィリアム・フォークナーが微笑みかける。ハンフリー・ボガードはマルタの鷹の役を欲しがっている。チャールトン・ヘストンのラッシュが試写室でかかっている・・・。

依頼人は、エロール・フリンという往年のハリウッド・スター。ロビン・フッドの冒険(1938)で知られる。だから邦題がロビン・フッドに・・となっている。残念ながらこの映画みていません。
彼がスキャンダル写真がらみでゆすられているところから話ははじまる。その写真とネガをめぐって探偵はハリウッドを駆けずりまわる。

映画の知識があってもなくても、当時の華やかな撮影所の雰囲気と、ハードボイルドな雰囲気が二重に楽しめるようになっている。もちろん、映画のうんちくを知っている人にはさらに楽しめるだろうけど、解説には和田誠がいちいちうんちくを語ってくれているので大丈夫だろう。

作者のスチュアート・カミンスキーは解説によると映画史の大学教授だそうで、この虚実ないまぜのおはなしをつくるのは楽しかっただろうなぁ。

翻訳がまたいい。和田誠の訳は、平易でわかりやすく、なにより楽しんで訳しているのが伝わってくる。「つるしでいいから背広を」など、最近ではつかわない だろう言葉の方が頭にすんなり入ってくる。やっぱり、小説は名詞だ。この人の描く絵に通じる、親しみやすくストレートに伝わり、しかも滋味があるというの か、これにも参りました、だ。

探偵事務所が歯医者を間借りしているのは、関川夏央・谷口ジローの事件屋稼業を思い出して、へんなところでぼくはニヤニヤした。

昨日深夜から読みはじめ、ちょうど人が殺されるところで友達から呑みの誘いの電話をもらったんだけど、時間は夜中1時過ぎ。これにはびっくりした。ドキッとしたなぁ。それから朝四時過ぎまでかかって読み終わった。

タイトル(「友達とつれしょんべんだ」)は、なんとボギーが探偵を誘ってハイ・シエラを撮っている(!)撮影現場から離れるとき、撮影スタッフにぽろっというせりふ。きまってるなぁ。

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