Monday, August 24, 2009

どこよりも冷たいところ S.J.ローザン

うれしくなって昔書いた紹介文を再録。

どこよりも冷たいところ S.J.ローザン 創元推理文庫

リディア=ビルもの第四作。
今回のビルは、レンガ工に化けて潜伏捜査を行う。この、レンガを積み上げる行為の描写がいい。
ディメイオが立ち上がり、私たちは作業を開始した。レンガを取ってはモルタルを塗りつけ、汗みずくになってはコーヒーを飲み、きれいな目地を作る。建設現場特有の騒音ー怒鳴り声やエンジンの咆哮、ノコギリのダイヤモンド刃が上げるうなりーに、ディメイオが打ち付けるレンガ用ハンマーの歯切れよい音や、人の行き来につれて足場の板がきしむ音が重なる。七月の太陽はゆっくりと移動しながら毛布で包み込むように熱気を放射した。両腕がだるくなったがはじめてきた日のようには痛まない。体の動きにもリズムが生まれ、滑らかになってきた。今していることに集中した。このレンガはここに、向きはこうして、モルタルをすくう、腰を伸ばす、次のレンガを手に取る。ここにもつながりがある。初めのうちは気がつかない、体の動きと物が連動し、調和するというつながりがある。スクリャービンとレンガ、そして、きらきらと光る埃っぽく熱い大気が喜びを見出した。(308p)
まるで散文詩だ。しかも、ビルはレンガ工になるというのを自分で提案した。それは、自分の手でひとつの物体を形作る仕事がしたかったからだという。ひとつの硬いレンガを持ち、レンガを延々積みあげて一つの更に大きなものを作る。それが、仕事だ。

もちろん、相棒のリディア・チンも大活躍。彼女が出てくるだけでページが華やぐ。
この彼女、日本のカバーイラストのおかげではとてもかわいらしいイメージを持つが、海外の表紙はやけに暗く、イラストもなく、そうした先入観なしで読み始めるとまた違った小説なのだろうな、と思う。チャイナタウンの女性探偵は、もっとはしっくこくて暗い現実味がありそうだ。

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